プロフィール

テンポスタッフ

Author:テンポスタッフ
東京都杉並区西荻窪にて新装開店の中野書店です。

インターネット販売と、年3~4回発行予定の目録「古本倶楽部」を中心に書籍販売をしております。

また、2015年3月より毎土曜日は閉架式にて書籍をご覧いただけます。
詳細はこちらからご確認くださいませ。

お問い合わせ等ございましたら、
当店ホームページ
お問い合わせフォームより
ご連絡ください。
    ふくろう

カテゴリ

最新記事

検索フォーム

リンク

QRコード

QR

カウンター

「古本屋奮闘記」海外買付の巻  
第3部 北京驚嘆篇

先週末の土曜から火曜日にかけて北京に行ってきました。遊びじゃなくて、お仕事です。
何してきたかと申しますと、古書のオークションへ参加してきたんです。私は漢籍には疎くて、結局何も買えなかったので、参加というより視察みたいなものでした。あちらでは日本のような業者だけの古書の市場というのはなくて、欧米風のオークションがとても盛んです。もちろん一般の人も商売人も、同じ条件で参加できて、開催方法も極めてオープンです。

その点、日本の古書のオークション、明治古展会の七夕大市とか古典会の下見展観入札会とかは、どうも商売人の立場が優先されていて、少し閉ざされてるな、とも感じます。まあ日本は日本の方法があるので、なんともいえないのですけど、やがてはこうしたオープンなスタイルに変っていくのかなとも思っています。

で、中国へは、ここしばらく親爺が楽しみがてら通っていたのですが、今回は事情があって選手交代しました。土曜日に行ったその足で中国書店のオークション責任者としばらく話をして、日曜日には二ヶ所で古書のオークションに参加しました。もうこの日は朝10時から夕刻まで、ずっと、競売漬け。

朝方は「中国嘉徳」というあちらの最大のオークション会社の主催する古籍善本、つまり古書のオークション。この会社は最近銀座に支店を出したのでご存知の方もいらっしゃるかもしれません。ともかくそのオークション。そして午後からは中国書店の開催する春のオークション。こちらはそれほど高値のものはありませんでしたが、それでも何百万円クラスはぞろぞろありました。

一日坐っていると、さすがに疲れ果ててしまうのですが、ことに午前中のホテルで開催された中国嘉徳のオークションなんかは、別の部屋で絵画や骨董品の競売も開かれており、サザビィやクリスティーズも真っ青になりそうな盛況ぶりでした。ことに今回の目玉は陳精華さんという有名な古書のコレクターの収集品が出品され、なかには数千万!? と、驚くような高値の古書が何点もあったりして、眠い目もすっかり覚めてしまいました。

この珍精華さんという人は、もう30年くらい前に亡くなられているんですが、上海の名門大学を卒業後に、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校で経済学を収めて、帰国後は銀行家としてお金持ちになりました。30過ぎくらいから古書の収集をはじめたらしく、膨大な蔵書を誇ったようです。インテリのビジネスマンですね。日本ではお金持ちと教養はかならずしも結びつかないようですが、中国では伝統的に財と知が結びつくのが理想なんですね。お金をもうけたら私財を惜しまずに本を集めて、文化人の交流サロンを設けて知識の伝承をしてゆく、みたいなのが良いとされている。ちょっと以前の中国はなかなか難しい事情があったのはご承知の通りだと思いますが、この方はやがてアメリカに行ってそこでなくなられるんです。で、今回の出品物はそのご遺族の持っていられた品物だそうです。

近代以降の日本でいえば徳富蘇峰さんの成簣堂文庫とか、二代目の安田善次郎さんの松廼舎文庫、これは残念ながら大正の震災と第二次大戦で失われてしまいました。また天理教の中山正善真柱さんがお集めになった、天理図書館なんかが、それに該当するのでしょう。

ともかくすごい値段でした。このカタログの真ん中あたりに5点、掲載されているのですが、その落札された総額は1300万元、日本円にしておよそ2億円くらいです。5点でなんと二億円です。

ちょっと話がずれますが、このコレクションの最初の品は湘山野録(しょうざんやろく)という明末の本で、文瑩(ぶんえい)さんというお坊さんのまとめた、北宗時代の偉い人や文人など色々な逸話なんかを集めた面白い本なのです。例えば杜撰という言葉があります。これは中国に道教という古い宗教があるのですが、これは中国の古い神様とか仙人の話と、老子の教えを一緒にしたような宗教でして、漢の時代の終わりごろに仏教が伝来してくると、その教えである大蔵経に対抗するために五千巻のお経、「道蔵」というのを作ったんですね。理論で負けないように。ところが、このお経、実は二巻だけが本物で後はほとんどがずっと後の、唐の末の時代に杜光庭という学者の作った偽物だ、というんです。そこから、いいかげんなものを杜撰、つまり杜さんが撰したような、しょうもないもの、というようになった、なんてことが書いてある。

また宋の二代皇帝の太宗さんは不思議な掛け軸を持っていて、昼間はなんにも絵が見えないのに、夜になるとちゃんと牛が寝ころんでる。昼は牛が草を食べにでかけているらしいというんですね。実はこれは南倭の人が海から採った特別な絵具で書いたものだ、というんです。南倭ってどこかというと日本なんです。つまりその頃の日本、平安時代の終わり頃ですが、夜光塗料らしきものがあったというんですね。

そんな面白い本ですし、ご覧いただけるとわかるのですが、判子がいっぱい押してある。書き入れもある。これは現代に近い新しい本でしたら、汚れありとかになって安くなるんですが、古い本ですと逆に伝来の確かさを物語っている。これは日本の和本も同じ事情です。で、これは明の終り頃の刊行物、日本でいえば江戸の初期くらいですね。その本が370万元、およそ5000万円でした。中国と日本の物価の水準から考えると、その数倍という感覚でしょうね。数億円という感じ。

正直に申しますと、すこし過熱気味だな、バブルじゃないかな、とも思ったのですが、なにせ勢いは今の日本の比じゃないですね。もちろん漢籍には素人の小生ごとき、手も足もでない。すっかり視察だけの一日でした。

ともかく初めての北京でしたが、来年のオリンピックを控えて今まさに建築ラッシュ。町並みは整理され、走っている車はピカピカの新車ばかり。有名な自転車やバイク洪水は、すっかり影をひそめています。是非はともかくも、目覚しい発展ぶりには驚くばかりでした。どこが社会主義だ? というくらい経済の自由化は進んでいます。

もちろんこれは都会に限ることでしょう。時折マスコミで報道される通り、貧富の格差も確実に広がっているようです。これからの、この大国の舵取りは本当に大変だろうなとも感じました。

さて、仕事とは言いながら、昨日(月曜)は35度の暑さのなか万里の長城を汗だくになって登りきり、今朝は駆け足で紫禁城を巡って、そのまま帰国しました。痩せるかと思いきや、あちらは実に飯が美味いんだなあ、これが。毎夜あれこれ出かけました。お昼に食べた大衆食堂のようなところの水餃子が、安くて美味かったことも忘れがたいです。

ちなみにこのお昼にたべた水餃子が3人分で大体600円くらい。で、さきほどのオークション会場のホテルで飲んだ珈琲が一杯で500円くらい。ここは社会主義の国だったよな、と、なんか複雑な感覚でした。

で、この二番目のオークションの会場となったところがルーリーチャン(瑠璃庁)という北京の有名な骨董や古書の街です。ただ書画や骨董とか墨や硯なども売っていて、どちらかと言えば骨董街という感じです。現在では神保町にあたるのは海淀区(かいていく)にある図書城という場所です。ただし神保町のように横に並んでいるのではなくて、お城のなかに国営書店やら個人商店やらの専門書店がひしめきあっているという話でしたが、今回はそこには行けませんでした。

世界には様々な古本街があることはご存知だと思います。ロンドンのチャリング・クロスとかフランスのセーヌ左岸、行った事はありませんが台湾や上海にも古本屋の街はあるそうです。ただし規模としては日本の神保町がおそらく世界で一番でしょう。

2008年4月
top

 ホーム