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Author:テンポスタッフ
東京都杉並区西荻窪にて新装開店の中野書店です。

インターネット販売と、年3~4回発行予定の目録「古本倶楽部」を中心に書籍販売をしております。

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「古本屋奮闘記」海外買付の巻  
第2部 倫敦黄昏篇

「霧のロンドンとは誰の言ったセリフか。折りたたみ傘を荷物の底にしのばせていた私は、6月12日、からっ晴のロンドンに到着。その後一週間帰国まで快晴は続いた。今回も斉藤さんに同行。あやしい二人の関係なのだ。
前回のニューヨーク行から僅か3ヶ月あまり、よもや再び機上の人になるとは、予想もしていなかった。カタログがいけなかったね。クリスティーズのカタログが。奈良絵本、絵巻が十余点。私はこの分野が好きなのである。すぐに熱くなってしまう。
○奈良絵本「源平盛衰記」五〇巻(!!)揃い
○住吉弘行筆「神宮皇后三韓退治絵巻」三巻
○「熊野権現絵巻」三巻寛永一四年写
他にも「竹取物語」「たむら物語」「弁慶」「鉢の木」等々、日本の市場では、現在なかなか出現しない逸品。ともかくも見てみたい。行ってみたいが先にたち、お金のことは親父まかせ。「またですか!?」と迷惑顔の女房を説きふせて旅立つ。
どことなくいやな予感がしたのは、同便の飛行機で、関西の思文閣さん、中尾さんとはちあわせしたことであった。下見会場に着いてみると、なんと、八木書店の八木壮一さん、安土堂の八木正自さん、ニューヨークでもお会いした原書房さん、そして僕ら二人。知った顔ばかりがあちらこちらで品物を見ている。オークション当日には、一誠堂さん、大矢書房さんも来るぞ、などとデマもとび、さながら古典会の大市のような雰囲気になっている。しかも品物の絶対数が少ない。これは荒れるぞー。
オークション当日はすさまじかったね。例の如く版画類からはじまり、淡々と進行していったのが、絵巻の分野に入るやいなや、オークション・ピット(目録にのっている参考価格)なんか吹飛んでしまう。異常な空気の中で驚くほど値が上がってゆく。私の思惑などあっというまにけちらされ、あれよ〵といううちに終了してしまたのだった。強気の斉藤さんもかなりの苦戦をしいられ、めだつ落札品は版画・絵巻の大物を各一点ずつしとめ得たぐらい。それでも前回、ニューヨークでの購入額をはるかに超えてしまっている。
私はと言えば、ゼロ!皆無なのであった。嗚呼。二点ばかり相当に我慢して手をあげ続けたのだが、気力負けと言おうか、資力の差と言うべきか、すべて他にとられてしまった。むしろさっぱりあきらめがついた気分だった。ただ、親父にどう報告しようかと思い、快晴のロンドンにあって、心はこぬか雨であった。
唯一、附録的な収穫は、ちょうど同時期にサザビーズのオークション下見がロンドンの会場で開かれており、日程上参加はできないのでいくつか値段を指定してきた。帰国後にその内の絵巻が一点落札したとのしらせがあったことである。そんなこんなであったがおちこみはしない。捲士重来、この次の機会には負けないぞ。
さてロンドン。商売の方はさっぱりであったが、この街はおちついていて気に入った。旧い立派な建物が多く、お伽の国に入り込んだよう。夜は十時頃になるまで日が暮れず、治安も良いために、遅い時刻に出歩いてもちっともこわくない。ただ経済上のかげりが影響しているのか、貸室の看板がやたらに目につく。ゆっくりとしてみたい所だった。
時間がとれずに観光らしいことはほとんどできなかったが、ここはニューヨークにまさる演劇の本場である。はたしていたるところに劇場があり、毎日十本以上の劇やミュージカルが上演されている。目うつりしたが「オペラ座の怪人」は日本と同様満員御礼。ならば「レ・ミゼラブル」を観ることにする。前売り券を買い、当日胸を躍らせて席についていたのだが、どうも横に立っている女性が困惑したような様子。係員に券を見せるようにいわれ気づくとなんと日にちをまちがっていたのだった。開演直前にすごすごと退出。入場口にかけあっても埒があかず、その晩は結局何も観ずにホテルに帰るはめとなった。お誘いした斉藤さんにも申訳なく平あやまり。もっと英語を勉強しておくべきであった。そういう訳で、ミュージカルは「ミーアンドマイガール」という喜劇を一本観るにとどまる。これは、面白かったので満足だったが、どうもロンドンではツキがない。
観光とはいえないが、特筆すべきは、本屋が全員、大英図書館へ招かれたことであろう。日本書担当の女性に案内していただく。ケンベルの「日本史」の分厚く製本された自筆稿本を手にとって見るなど、このような機会でもなければできることではなかろう。また、この図書館の目玉のひとつ、敦煌の文書類も拝見した。井上靖の小説で知っていたが、あの一万数千のぼう大な数の書巻が収められている書庫に入れてもらい、珍しい写本、写経のいくつかをひろげていただいた。商売などという小さな次元からはとてもおしはかれない貴重な体験をさせてもらう。図書館自体が日本とは比較にならない規模であり、収容力であった。日本の図書館も、もう少し…なとどは言うまい。それならば、それにふさわしい本を出してみろと言われると返す言葉もない。
ともかくも二度にわたる海外遠征の結論は、と言えば、ほこるべき成果はほとんど無いに等しいのだが、行かずにくよくよするよりは、行った方が良かった、という事だろうか。商売をつづけていく上で、よい刺激になったのは確かである。この場をかりて同行を快く承知して下さった斉藤さんに感謝する。
「古書通信」1998年8月掲載


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