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Author:テンポスタッフ
東京都杉並区西荻窪にて新装開店の中野書店です。

インターネット販売と、年3~4回発行予定の目録「古本倶楽部」を中心に書籍販売をしております。

また、2015年3月より毎土曜日は閉架式にて書籍をご覧いただけます。
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海外買い付けの巻

「古本屋奮闘記」海外買付の巻  
第1部 紐育初陣篇 

1989年3月18日、ニューヨークに旅立つ。クリスティーズのオークションに参加する為である。同行は玉英堂の斉藤孝夫さん。有体に言えば一人はこわかったので、連れていってもらったのだ。氏がビジネスクラスで私がエコノミーの席であったのは、双方の経済力の差という外は無い。    
実はニューヨークには十年以上も昔、学生時代に来たことがあった。  
その頃演劇を少々かじっていたために、一度ブロードウエーを観てみたく、1週間たてつづけに劇場に足を運んだ。つくづく感じたのは彼我の役者のちがい、劇のつくりの較差であった。日本の新劇やミュージカルっていうのは、ようするに翻訳劇なのだなということだった。以後演劇の世界からは遠ざかってしまう。
商売で、とはいえ久々のニューヨークはなつかしい。歩いているだけ
でも、思い出とあいまってワクゝゝする。この街をひと言で表現するならば“資本主義のるつぼ”っていうところだろう。大金持ちと貧乏人がとなりあわせに同居している。電話つきの特大リムジンカーとホームレス、摩天楼とスラム、教会と追い剥ぎ、美術館と淫売宿…。大学、金融街、劇場街ETC。様々な人種や職種が、小さなマンハッタン島にひしめきあっている。十年前も今も同じように感じた。尤も当時は最低の貧乏旅行であったが。
 斉藤さんを誘ってメトロポリタン博物館、近代美術館(アンディ・ホールを特輯していた)を見学。夜はミュージカル「キャッツ」を観る。ブロードウェーだよ、本場なのだ。ウィンターガーデン劇場なのだよ。もう私は観劇で涙がとまらなかったね。尤も斉藤さんいわく、前半はつまらなかったね。後半は面白かったけれども。なんのことはない氏は前半分、寝てたのだ。ミュージカルファンが聞いたらおこるね。別の日に今度は一心堂の水井さんも一緒に「コーラスライン」を観劇。映画で知ってはいたものの、テンポの早い会話と場面転換についてゆけず充分に楽しめたとは言いがたい。ただし役者の動き、歌はさすがに素晴らしい。あたりまえのことではあるが。
 さてオークション。はじめは版画類がつづき、私はただ傍観。斉藤さんは気のむいたものを何点か落札。小手調べなどと言いながら、かなり金高なものもあった。水井さんも大物を1点入手。我が第一の標的は、本の分野ではじめの方に出品される遠近道印作『東海道分間絵図』五帖である。カタログには特に説明もなかったが、現物は手採色の入った初刷本で、保存の良いもの。じかに見て気に入る。題簽が二冊分しか残っていないけれども、望むべくもない。内心こいつだけはどんなに高くなっても手を下ろすまいと、ほぞを固める。しばらく版画の部が終わり、いよいよ本番。オークショナーをにらみつけるように手を上げ続ける。値の低いところで会場内に相手はいなくなった。あとは電話注文との競合である。これがどこまでも追っかけてくるのだ。かろうじてふみこたえたものの、腹づもりの倍以上になってしまった。落札したときには喜ぶよりも不安になったくらいである。後に聞いたところによると、やはり同業者の注文で、カタログの写真から手彩色のものと判断したそうである。偉いなあ。
 勢いに乗じて、あと二点ほど入手。少々予算オーバーだったが、はじめてにしては満足して良いだろう。斉藤さんはすごかったね。哥麿の絵本に集中し、保存の良い品だけをすくいあげるように落札。眼をむくような値だったが、気にもとめず次々と手を上げ続ける。この人の負けん気の強さは、人あたりのよい外面からは想像できない。今回、点数の少ないせいもあり、欲しいものは全部採っちゃったのではないかしら。夕食の時こう話してた。
「あの時、中野君が分間絵図を追ってたでしょう。もし手を下しそうになったら、わきで押えてでも買わそうと思ってた。…」
有難くも恐ろしい先輩である。つまり業者として、欲しいと思った品は断固としてとる覚悟をもて、と言っているのだ。オークション或いは日本の市場でも、競合に勝つには、どんな知識や見識を持っていてもそれだけではいけない。まず品物を買わなければ、この商売ははじまらないのだと言っているのである。ともあれまずはめでたしゝゝ。その夜の酒のまわりがはやいこと。
「古書通信」1998年8月掲載
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